2011年11月19日土曜日

『ブラック・スワン』 ナシーム・ニコラス・タレブ




この本、お堅い経済書ではない。


<行儀の悪いトレーダー> タレブ が世の中で偉そうに語る学者やエコノミスト、専門家達をバカだのアホだの罵りまくって無双する痛快な哲学書なのだ。


911、リーマンショック、原発事故…確率が低過ぎてありえないと言われていた事でも、いざ現実に起こってしまえば、「起こってもおかしくなかった。いや、むしろ起こるべくして起こったのだ」と人は思うようになるものだ。


こういう稀にしか起こらないが、今までの価値観がまるごとひっくり返るほどの大事件をこの本ではブラックスワンと呼ぶ。いるはずのない黒い白鳥という比喩だ。 


ところで、911やリーマンショック、原発事故が起こったあと専門家達はテレビで「本当は以前から予兆(情報)はあった」「起こってもおかしくなかった」「実は防げた」などと言っていたのを覚えているだろうか。そして次はこの経験を活かして危機を予想できると主張している。  


でも本当にそうだろうか。



もし911が予想されていたら911は起こらなかったのではないか?


社会の大多数の人は現実に原発事故や金融危機なんて起こるはずないと思っていた。

だから起こったし、何の対処もできずに壊滅的な被害になったのではないだろうか。

皮肉な事に予想されている危機は予測されているからこそ実際には起こらず、予想されていない危機は全く注意を払ってないからこそ起こってしまい、大打撃をうける。(人生に起こる出来事もそうじゃないだろうか)
  



金融工学の人は過去のデータから統計や確率、ベル型カーブというものを作って、未来の危機を予測できると考える。
リスクヘッジできるから安全です、と言って金融商品を売っているわけだ。  

でも本当はリスクヘッジなんてできない。

なぜかと言えば、いくらデータを集めてもヒュームの帰納の問題、「昨日まで東から太陽が昇ったからといって明日も東から昇るとは限らないじゃないか」という問いには答えられないからだ。



科学も金融工学も医療も、私達が信頼を置いている学問は全部帰納法ベースだ。

この考え方は「今まで起こらなかったパターンは未来にも起こらない」と考える。

過去のパターンにない新しいパターンは扱えないのだ。

そして実際に(最近だと光より速いニュートリノのような)ブラックスワンに出くわすと今までの体系が一気に崩壊して新しい思考モデルを作り直さなくてはならくなる。

私達が信頼する科学、経済学、社会学、心理学…などなどはブラックスワン一回でぶっ壊れる前提の、意外に壊れやすいものなのだ。(でもブラックスワンは滅多に起こらないのでついそれを忘れてしまう)




どれだけこの世の予測が難しいか。
数学者ベイリーのビリヤードボールの予測の話がすっごく面白い。

ビリヤードの玉を突いて一回目に跳ね返った後にどうなるか、突く力と摩擦力を使って比較的簡単に予測できる。
二回目に跳ね返った後もなんとか計算できる。

でも九回目に跳ね返った後になると、テーブルの横に立っている人の引力の大きさを計算に入れないといけない。


そして56回目に跳ね返った後は、宇宙に存在する全ての素粒子についてそれぞれ仮定が必要になるという(笑)
最初に計算したときにわずかな誤差があると、どんどんそれが増幅されていってしまうので、何度も跳ね返る場合にはたくさんの情報が必要になるわけだ。

単純なビリヤードボールでさえこんな状況なのだから、現実社会の未来を予測するなんて……




この世は自分達が思っているよりもずっと複雑だし、知識や思考は自分達が思っているよりもずっと単純なものしか扱えない。 だから、もう少し知識への自身過剰っぷりを辞めようぜ、とタレブは言う。




こういう複雑系とか不確実性の話は別にタレブが発見したものではないけど、真面目な大学教授が同じテーマの本を書いてもちっとも面白くなかっただろう。
大体学者の書く本は世間知らずの机上の空論ばかりになりがちだ。
やっぱり海千山千のトレーダーが、実体験を引き合いに出しながら、不確実性について書いた本だからこそ、リアルで深くて面白いのだ。


2011年11月9日水曜日

『攻殻機動隊』 士郎正宗




『生物と無生物のあいだ』の「現在の科学では生命をうまく定義できない」って言葉。
どこかで聞いたなぁ・・・

と思ったら人形使いだった。



攻殼機動隊を初めて見た&読んだのは高校時代で、人形使いの話が難解過ぎて意味不明だったんだけど、今思い起こしてみると、あれって生命の話だったのかー。と今頃になってつながった。


というわけでここから盛大にネタバレ。




私達は朝、目覚めて昨日と同じ肉体に入っているから、変わらず私なんだ、と自覚できる。
朝起きて性別が変わってたり、虫になったりしない。

でも、もし唯一の肉体がなくなって脳以外サイボーグになってしまったら?

肉体の拠り所がなくなってしまうと、記憶ぐらいしか頼るものがなくなってしまうわけだけど、記憶ってかなりあやふやなものだ。
あの記憶は本当は作り物では?もしくは夢では?と疑い始めたらどうなるだろう。

多分、全身サイボーグの人がこの世に居たら、ほんとにGhost in the Shellで、魂が自分とは関係のない殻に閉じ込められてるような不安な感じで生きることになるんじゃないだろうか。
草薙素子ってそういう人で、めちゃくちゃ強いんだけど、自分が本当に人間なのか生きているのか、確信が持てなくなっていってしまう・・・。




で、次にもっと極端な例を考えてみる。
そもそも意識ってはどうやってできるのか?

もし脳が作るとしたら

脳と同じような神経ネットワークに似たものができたら、そこに意識が生まれるかもしれない。

そして、本当に偶然ネットに意識が生まれちゃったら?
それがこの漫画に出てくるネット生命体・人形使い。

この二人、肉体がないから老いもないし、子孫を残すこともない、破壊されない限りは死なない。

確かに超人的に強いんだけど、自分は生命としては不完全な存在なんだと思っている。

あのラストは似た者同士の二人が、コピペではない子孫(有性生殖的な子孫)を残す事とそれによって死を得る事で、やっと生命として完成するという話だったのかなと思うわけです 。




しっかし、このアニメは今見てもほんとすごいなーと感動した。



2011年11月6日日曜日

『生物と無生物のあいだ』 福岡伸一





新書とは思えないほど内容が専門的なので、分からないところも結構あったけど、〈生命〉の概念がガラッと変わったほど衝撃的な本だった。



ガツンとやられたポイントは2つあって

ひとつは、「生命の定義って実はまだうまくできていないんだ」ということ。


「増殖するものが生命」だと考えると、ウィルスも生命だということになる。でも宿主の細胞に取り付いて自己複製させるだけのプログラムオートな物体を果たして生物と呼べるのか?ウィルスが生物と定義して良いかどうかはまだ議論が別れているとか。 


ふたつめは、人間の身体は代謝によって、一日でもかなりの分子が置き換わり、数ヶ月経つとほとんど別の物体になってしまう!という話。
(でも見た目はDNAのおかげで同じ形になっているから私たちには分からない!)

この話を読んで、生物の身体ってほんと「万物流転の一部」というか、「DNAで形作られた流れ」なんだなぁと思った。
代謝すげー

しかし、数ヶ月で丸ごと替わっちゃうってことは半年間コンビニ弁当食べてたら分子が全部それになっちゃうわけだから、コンビニ弁当人間なのか?
そりゃ食生活には気を使わなきゃいけないわけだ・・・。


2011年11月5日土曜日

『人生がときめく片づけの魔法』 近藤麻理恵



「ときめき」だの、「魔法」だの・・・

誰でも簡単系のライトな片付けのアイデア集みたいなもんだろうと思っていた。


・・・甘かった。ベストセラーだと思ってなめていた。


この著者、超オタクなのだ!片付けの。


例外なくオタクという生き物はやると決めたら徹底的にやる。ほんとに容赦ない。
毎日10分とかそういうぬるい話ではない。
二度と散らかりようのないほど一度だけ死ぬほど徹底的な片付けをしろというのだ! 


そのやり方は、「ものを手にとってみて、今ときめかないなら捨てる」というシンプルなルールを繰り返すのみ。

何かの謎のアダプター、期限切れの保証書みたいなものは何の抵抗もない。


でも愛着のあったもの。

もう弾かないギター、着なくなった服、記念品・・・

を捨てるのは自分の過去との決別みたいな卒業式みたいなしんみりした気分になる。

「すまない、昔は好きだったんだけど、今はもう好きじゃないんだ。」と思いながら服や本などをゴミ袋に放り込んでいく。





で、実際これだけのゴミが…。





著者によると、どこかで頭のカチッと切り替わる瞬間があって、そうなるともう散らからなるんだそうだ。


あれから五ヶ月…。

確かに本当に散らからなくなった・・・。

何事もその道を極めたオタクの意見はすごいなと舌を巻くのだった。





『資本主義と自由』 ミルトン・フリードマン



  • 最低賃金なし
  • 職業免許制度なし
  • 累進課税なし


…こんなのを見ると、やはり新自由主義はけしからん!と思うに違いない。

けど、ちょっと待って欲しい。

こんな過激な規制緩和だけだと格差社会になって貧困が広がってしまうけど、フリードマンは超過激な貧困対策も考えついたのだ。 


それが<負の所得税>


基準金額に達していない所得の人は足りない金額をもらえる制度。
例えば7万円が基準ならなんと働かなくても7万もらえる!
そして、教育クーポン券を子供全員にあげる教育バウチャー制度も。


なぜこんなに大盤振る舞いの社会保障を作っておくか。 


それは新自由主義のコンセプトが「とにかくフェアな自由競争が起こるような環境を整えること」だから。

貧困とか病気、倒産などの不運によって優秀な人がドロップアウトしていってもらっては困るのだ。


新自由主義は企業側にとって都合の良いものだと語られがちだけど(そして都合のいいものばかりが導入されているのだけど)、独禁法を完全徹底させて企業も常に厳しいフェア自由競争を強いるわけだから必ずしも企業に優しい思想ではないと思うのだ。本来は。


ちなみに負の所得税はベーシック・インカムというアイデアに発展していて、これがすっごい面白い。

社会保障に関してはこれがあれば年金、生活保護みたいなややこしい制度は全部いらなくなる。そしてあまりに簡単過ぎる制度なので役人もいらなくなって、ものすごく小さな政府になる。


思うに今後、機械化やIT化がどんどん進み、ますます労働力は要らなくなるだろう。
そうすると労働生産性の高いスティーヴ・ジョブスみたいな個人だけが働いて後の人は将来働かなくてもいいじゃないか(というか働いても意味が実質ない)というベーシックインカム社会が到来せざるをえないんじゃないだろうか。2050年ぐらいにはこの本に書いてある社会になっているんじゃないだろうか。
最近のアメリカを見ていると、そんな事を思ったりするのだけど、どうだろう・・・





2011年11月3日木曜日

『隷属への道』ハイエク




リーマンショックが起こったとき

「原因は新自由主義だ」

みたいな話を結構目にした。
で、「あぁ、きっと強欲な拝金主義みたいな思想があるんだな」と思っていた。


でも後日、「金が全てである、みたいな思想があっても誰も支持しないよな」と思い直し、実際はどうなんだろうと思って、古典と言われているものを読んでみることにした。
それがこの本。『隷属への道』。うーん、重々しいタイトルw

で、実際読んでみたら「おぉ、なかなか新自由主義良いじゃん」と思ったw


この本自体は1920年代当時の共産主義的な経済政策に対して警鐘を鳴らす内容なので、全体的に「ハイエクさんは先見の明がありましたなぁ」ぐらいの印象なんだけど。

でも、その中の学者や技術者の夢見る理想社会を短期間で計画的に実現しようとする事自体がヤバいんだよ!という考え方は面白かった。
人生は短い。理想社会の夢も生きているうちに実現するのはごくわずかな部分に過ぎない。そこで、学者たちは社会を一気に理想的になるように計画する。そしてその理想ために必ず強制が生まれる。そこが危険なんだよ!というわけだ。

世界の全て(ニーズや問題)を知る人間がいるなら経済政策はうまくいく。
でもそれは無理なので個人が自分の考えで行動し、その行動の集積が市場で自然淘汰されて良い選択が生まれるのを待つ。そして、社会は経済政策なんてせずに自由市場がフェアに動くように監視だけをしよう、と。

うーん、なるほどそうかもなぁ

『困ってるひと』 大野更紗




いや、すごい本を読んだ!
大野更紗『困ってるひと』。エンターテイメント闘病記。


digで紹介されてて、闘病記が面白いなんてないだろうと思っていたけど、読んでみたら本当に笑えた。でも内容は想像を絶するような難病者の地獄の日々。痛いの苦手な自分はこの文体じゃないと無理だった。


日本は先進国だし、重い病気になってもどこかで助かるような気がしていたので、社会の片隅でこんな事が起こってるなんて、読んでて信じられない思いだった。こういう状況に置かれて、どうやって生きる動機を持てばいいのか。文体は軽いんだけどアウシュビッツ体験記『夜と霧』とダブった


「手足の関節が滑らかに曲がる」とか「目が水分で潤ってる」とか普段当たり前に思ってるけど、実は奇跡みたいなすごいことなんだな。健康って素晴らしい。明日もグリーンスムージーを飲もう