この本、お堅い経済書ではない。
<行儀の悪いトレーダー> タレブ が世の中で偉そうに語る学者やエコノミスト、専門家達をバカだのアホだの罵りまくって無双する痛快な哲学書なのだ。
911、リーマンショック、原発事故…確率が低過ぎてありえないと言われていた事でも、いざ現実に起こってしまえば、「起こってもおかしくなかった。いや、むしろ起こるべくして起こったのだ」と人は思うようになるものだ。
こういう稀にしか起こらないが、今までの価値観がまるごとひっくり返るほどの大事件をこの本ではブラックスワンと呼ぶ。いるはずのない黒い白鳥という比喩だ。
ところで、911やリーマンショック、原発事故が起こったあと専門家達はテレビで「本当は以前から予兆(情報)はあった」「起こってもおかしくなかった」「実は防げた」などと言っていたのを覚えているだろうか。そして次はこの経験を活かして危機を予想できると主張している。
でも本当にそうだろうか。
もし911が予想されていたら911は起こらなかったのではないか?
社会の大多数の人は現実に原発事故や金融危機なんて起こるはずないと思っていた。
だから起こったし、何の対処もできずに壊滅的な被害になったのではないだろうか。
皮肉な事に予想されている危機は予測されているからこそ実際には起こらず、予想されていない危機は全く注意を払ってないからこそ起こってしまい、大打撃をうける。(人生に起こる出来事もそうじゃないだろうか)
金融工学の人は過去のデータから統計や確率、ベル型カーブというものを作って、未来の危機を予測できると考える。
リスクヘッジできるから安全です、と言って金融商品を売っているわけだ。
でも本当はリスクヘッジなんてできない。
なぜかと言えば、いくらデータを集めてもヒュームの帰納の問題、「昨日まで東から太陽が昇ったからといって明日も東から昇るとは限らないじゃないか」という問いには答えられないからだ。
科学も金融工学も医療も、私達が信頼を置いている学問は全部帰納法ベースだ。
この考え方は「今まで起こらなかったパターンは未来にも起こらない」と考える。
過去のパターンにない新しいパターンは扱えないのだ。
そして実際に(最近だと光より速いニュートリノのような)ブラックスワンに出くわすと今までの体系が一気に崩壊して新しい思考モデルを作り直さなくてはならくなる。
そして実際に(最近だと光より速いニュートリノのような)ブラックスワンに出くわすと今までの体系が一気に崩壊して新しい思考モデルを作り直さなくてはならくなる。
私達が信頼する科学、経済学、社会学、心理学…などなどはブラックスワン一回でぶっ壊れる前提の、意外に壊れやすいものなのだ。(でもブラックスワンは滅多に起こらないのでついそれを忘れてしまう)
どれだけこの世の予測が難しいか。
数学者ベイリーのビリヤードボールの予測の話がすっごく面白い。
ビリヤードの玉を突いて一回目に跳ね返った後にどうなるか、突く力と摩擦力を使って比較的簡単に予測できる。
二回目に跳ね返った後もなんとか計算できる。
でも九回目に跳ね返った後になると、テーブルの横に立っている人の引力の大きさを計算に入れないといけない。
そして56回目に跳ね返った後は、宇宙に存在する全ての素粒子についてそれぞれ仮定が必要になるという(笑)
二回目に跳ね返った後もなんとか計算できる。
でも九回目に跳ね返った後になると、テーブルの横に立っている人の引力の大きさを計算に入れないといけない。
そして56回目に跳ね返った後は、宇宙に存在する全ての素粒子についてそれぞれ仮定が必要になるという(笑)
最初に計算したときにわずかな誤差があると、どんどんそれが増幅されていってしまうので、何度も跳ね返る場合にはたくさんの情報が必要になるわけだ。
単純なビリヤードボールでさえこんな状況なのだから、現実社会の未来を予測するなんて……
この世は自分達が思っているよりもずっと複雑だし、知識や思考は自分達が思っているよりもずっと単純なものしか扱えない。 だから、もう少し知識への自身過剰っぷりを辞めようぜ、とタレブは言う。
こういう複雑系とか不確実性の話は別にタレブが発見したものではないけど、真面目な大学教授が同じテーマの本を書いてもちっとも面白くなかっただろう。
大体学者の書く本は世間知らずの机上の空論ばかりになりがちだ。
大体学者の書く本は世間知らずの机上の空論ばかりになりがちだ。
やっぱり海千山千のトレーダーが、実体験を引き合いに出しながら、不確実性について書いた本だからこそ、リアルで深くて面白いのだ。


