2012年2月20日月曜日

『The Art of the Long View』 Peter Schwartz 4



シナリオ・プランニングの考え方では、人間個人という存在はドライビングフォースに絡め取られたかなり無力な存在、という世界観を持っているようで、そこが面白いと思った。

実際、CEOのような組織のリーダーについてあまり考える必要はないと書いてある箇所がある。

一般的なビジネス書では、功績や問題を属人的にしがちで、リーダーのおかげで世の中が変わったのだ、というようなことが書いてある。

しかし、ピーター・シュワルツの考え方はちょっと違う。

どんなリーダーであれ、彼を存在させている様々なドライビングフォースが存在している。

リーダーはその組織の反映だ。

例えば、イランの文化の多様性が反西洋化の原理主義者を生み出し、最終的にホメイニというイスラム主義的なリーダーを生み出した。

ほとんどの会社ではリーダーの役割と力は過大評価されている。シナリオプランナーはただその組織の内部と外部の力を定義して分析すれば良い。

これがピーター・シュワルツの考え方だ。

これは確かにその通りで、例えばアメリカの大統領がどんな人になろうと、ドライビングフォースから考えれば、実際に取れる選択肢はかなり少ないものになるだろう。

だから、ドライビングフォースが変わらなければ(or 変えなければ)リーダーが誰になろうと何も変わらないと考えた方がいいかもしれない。


例えば橋本徹を生み出したのは、<大阪の経済の停滞>によって生まれた<市民の鬱積><変革への期待>。これらがドライビングフォースになって彼を生み出したと考えられる。だから、たとえ彼がいなくなっても、根本のドライビングフォースが消えない限り、第二、第三の橋本徹が出現することになるだろう。


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さて、最後に最初の問いに戻るとして。

『ブラックスワン』で浮かんだ疑問にこの本は答えられているだろうか。

「世界は複雑系だ。要素が多過ぎて、人間には予測することはできない。でも、ではどうすればいいのか。」

シナリオ・プランニングではこう答える。



まず予測を「決断して行動できる事」に絞ることで、判断できる要素をバッサリ減らす


さらに不確実性な軸を使って3パターンのシナリオを作って備えることで、一つの未来にしか対応できないリスクを減らす



もちろん、これだけやっても完全に未来に備えることはできないだろう。

が、少なくとも今、不確実な未来に立ち向かうには、ベストを尽くしたと言える手法なんじゃないだろうか。









『The Art of the Long View』 Peter Schwartz 3




実際のシナリオの作り方。
巻末についていたマニュアルを全訳してちょっと解説を足した。(※かなり意訳)

 STEP1:重要な問題、決断をはっきりさせる。 


まず今何が問題で、何を決断するのかをはっきりさせる。



例えば、中古車販売業者だったとして、「核戦争が起こって街が壊滅したら?」とかについてシナリオを作っても仕方ない。

なぜなら、仮に核戦争が起こるとして・・・・・・




・・・・・・中古車販売業者が今どう行動しても、結局起こるじゃねーか!



だから今自分にとって「何が問題で、何を決断したいのか 」をはっきりさせておかなければならない

例えば「新しい工場を作るべきか」「海外に事業展開するべきか」「家を買うべきか」 などなど。



先に決断したい事ありきで始まるので、シナリオはいつもその人、その企業しか使えないものになる。

自動車メーカーで作った原油価格の推移などのシナリオは、映画会社にとっては何の役にも立たないからだ。





 STEP2:<キーファクター>をリスト化 

自分の決断の成功に直接影響を与えそうなものをリストアップする

ここでリストアップされたものを<キーファクター>と呼ぶ。
あくまで直接影響を与えるものをリストアップする。

自動車メーカーなら「燃料価格」「中国インドの市場」「国内の消費者の変化」などなど。
ゲームメーカーなら「ゲームハードの売り上げ」や「開発コスト」「消費者の嗜好の変化」などなど。


 STEP3:<ドライビングフォース> 

キーファクターを左右するもっと大きな環境要因をリストアップする。
これらを<ドライビングフォース>と呼ぶ。

例えば、「人口の推移」や「中東情勢」などなど。
この中で確実に予想できるものと、そうでないものがある。

なので、ドライビングフォースを<確定ドライビングフォース><未確定ドライビングフォース>に分ける。



<確定ドライビングフォース>はどんなものかと言うと、典型的なのが人口

例えば、2020年の25歳の人口はもう分かっている。日本はしばらく少子高齢化なので、国内の若年層の市場規模は縮小してゆく。
また、 「パソコンの性能が良くなっていく」 とか「ネットワークのスピードが上がる」のように、どう考えてもこうなりそうだ、というものも、<確定ドライビングフォース>と考えてもいいだろう。


<未確定ドライビングフォース>はどんなものか。

典型的なのは景気、政治。
他にも携帯電話のシェア、アメリカの大統領選の行方、ライバル他社の戦略などなど。 

ドライビングフォースを決めるには市場、経済、新技術、政治などを一通りリサーチする必要がある。


 STEP4:ランク付け 

次はキーファクターとドライビングフォースを二つの基準でランク付けする。

一つ目は決断の成功への影響力
二つ目は不確実性レベル

これをランキング付けしたら、不確実なもので最も影響が強いものを2、3個選ぶ。これがシナリオの軸、シナリオ・ドライバー>になる。

もちろん「ベビーブーム世代が歳を取る」などの<確定ドライビングフォース>は全てのシナリオで同じになる。


 STEP5:シナリオロジックの選択 

前のステップでのランク付けが最終的にシナリオの軸になる。
ここが最も重要なステップだ。

いろいろな軸が出てくるだろうが一番致命的で、不確実な軸を発見する。
そして最終的には決断に影響する3つのシナリオにまとめる。

例えば、自動車会社が「燃料価格」と「保護主義」がシナリオドライバーと定義したら、以下のように表(マトリックス)にはめてみると分かりやすいだろう。

①保護主義○ 燃料価格× ⇒ アメリカの小さな自動車販売会社には有利。
②保護主義× 燃料価格× ⇒ エコカーの輸入車が市場のローエンドを占める。
③保護主義○ 燃料価格○ ⇒ アメリカの燃費の悪い車がアメリカ国内で売れるが海外ではダメ。
④保護主義× 燃料価格○ ⇒ 燃費の国際競争が激化。しかし、大型のアメ車は海外市場でも売れる。

 STEP6:シナリオの肉付け 


STEP⑤で出てきたものに、STEP②、③で見つけた<キーファクター>と<ドライビングフォース>のリストにを使ってシナリオに肉付けしてゆく。


どの要素もシナリオごとに注意を払うべきだ。

あるシナリオでは影響のなかったものが別のシナリオでは、いろんな要素と絡み合ってもの凄く影響が大きくなるものがあるからだ。


そして、それらのピースを組み合わせて物語を作り出す。

「どのように世界がここからあそこへ行くのか?」

「シナリオにリアリティを持たせるにはどんな出来事が必要か?」


 STEP7:決断にどう影響するか 


シナリオがある程度固まってきたら、未来をリハーサルするために、STEP①で決めた<決断>
に立ち戻るときだ。


各シナリオでこの決断はどう見える?

どんな脆弱性が露わになっただろうか?

全てのシナリオでこの決断はうまくいくだろうか?それとも1、2のシナリオでだけ?



もしも、1つのシナリオの中でしかうまくいかないなら、この決断はリスクの高いギャンブルだと言えるだろう。



 最終STEP:指標(インジケーター)の特定 


どのシナリオが現実になるかを知ることは重要なことだ。

景気などは比較的予想し易いだろう。
だが、次にどのシナリオに転ぶか分からないときもある。

例えば、日本の社会構造はいつ変化するだろうか?と言ったような場合。
どんな統計を読めばそのシナリオに向かっていると判断できるだろうか

人口?国家予算?○○党の議席数?

肉付けされたシナリオを見て、それを指し示しそうな指標(インジケーター)を特定する

<指標>をチェックすることで、今どのシナリオに向かって世の中が動いていくかを予想することができるだろう。





 TIPS 


 ① 3つのシナリオにする際の注意点 

シナリオに慣れていない人達は3つのシナリオを作ろうとして ”1種類の3つのシナリオ” 作ってしまいがちだ。

①が「ミドル」と②「最良」③「最悪」のように。

これだと複数のシナリオの良さは失われてしまう。

あるシナリオが他のシナリオと被ってしまう場合、それらはボヤけ始めて意思決定ツールとしての意味を失ってしまう


 ② 確率を使わない 

確率は考えないようにする。なぜなら最も高い確率のシナリオしか考えなくなりがちだから

どうしても確率を考慮するなら「同じ確率のシナリオ2つ」と、「確率が低いが影響が大きいワイルドカードのシナリオを2つ」作る。

また、シナリオ同士の確率を比較するのは良くない。

なぜなら、この二つのシナリオは根本的に違う環境(ドライビングフォース下)で起こるだろうからだ。

 ③ シナリオの名前には気を遣う 

シナリオの名前が覚えやすくてインパクトがあれば、その会社の意思決定のときに多くのチャンスがあるだろう。

なぜならその名前がコンセプトを強烈に喚起するからだ。

シェル石油では「内部矛盾の世界」という名前のシナリオは10年以上も使われ続けた。


 ④ シナリオチームの人選 

第一に決定権を持つ幹部クラスの参加とサポートが必要だ。
第二に広い分野に知識を持つスタッフが必要だ。
第三にチームとしてやっていける想像力豊かでオープンマインドな人を探す。



 ⑤ 最後に 

シナリオがあり得そうで、驚くようなものになったとき。

そして、それらが古いステレオタイプを打ち破る力を持ち、

シナリオ制作者が責任を持ってそれを仕事に使えるとき

あなたは良いシナリオを作った、と言っていい。



シナリオ作りは強烈な参加型の作業だ。そうでなければ決して成功しない。




『The Art of the Long View』 Peter Schwartz 2




実際のシナリオがどんなものかこの本に、15年後の未来について書かれたシナリオの例があるので、実際どうだったか検証の意味も兼ねて紹介。

ちなみにこの本が書かれたのが1991年。予測される未来は2005年だ。

91年の世界は何が起こっていただろうか。

二年前にベルリンの壁が崩れ、この年にソ連が崩壊。、イラクがクウェートに侵攻して湾岸戦争が勃発。ちょうど冷戦後の次の世界が始まろうとしていたころだ。

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①「New Empires」  

保護主義が台頭し、世界大戦前のようなブロック経済圏が対立している世界
ひとつ目はアメリカや日本、カナダなどの<太平洋ブロック>。
対するのはヨーロッパとロシアの同盟<ヨーロッパブロック>。
この2つ以外の経済圏は、中東、北アフリカ、ラテンアメリカの近隣諸国が作る小さな同盟がいくつかある。 インドと中国は独自の道を行くだろう。  
ただ、メイン2つのブロックがほとんどの資源や産業を占有することになるだろう。

経済は保護主義的で、関税が高まる。
官僚の力が強くなり政治的な改革は難しくなるだろう。
自由貿易が行われるのはブロック圏内の国同士でのみだ。

アイデンティティは大きな問題になってくる。 国内では民族主義者の人々と同盟を重視する人々の間で争いが起こるだろう。  
文化面ではアイデンティティを求めて民族的な芸術、音楽、言葉、ファッションが復活する。  

このシナリオでは60年代の冷戦のように戦争が起こりやすい。
武器の貿易が活発化し、なんと言っても2つの大きなブロックが核兵器を持っている。
またコンピュータを使って敵国の金融システムを攻撃することも行われるだろう。
実際にどのような戦争が起こるかは予想が難しいが、ライバルの経済圏同士で経済の全面競争をし始めると、第一次、第二次世界大戦のような大規模で制御不能な戦争になる危険性がある。


② Market World

イデオロギーや価値観の対立よりも、お金を儲ける事こそが全ての世界だ。
世界が一つの市場のようになっていき、ありとあらゆるものについて国際的なビジネスルールが定まってゆくようになる。  

こうして作られたグローバル市場経済は勝者総取りの熾烈な競争世界だ。この競争ではスリム化したイノべイティヴな企業だけが生き残るだろう。  
政府の役割は市場操作ではなく、自由な市場を作ることになるだろう。それは競争を促すためのインフラ整備であったり、規制緩和であったり、教育であったりする。特に教育は重要だ。イノベーションと変化が激しい世界ではいかに早く学べるかが重要だからだ。 教育社会を実現した国は大きく成長するだろう。  

テクノロジーへの投資が加速し、新しいメディア、服、食べ物、エンターテイメントが次々と現れる。   
 
また、ほとんどの国で人口が減少し始める。政府の政策ではなく豊かさと避妊や人工授精などの技術の影響によってだ。

ヨーロッパはグローバル化に適合し、世界経済をリードするだろう。日本はお金を持っているが、アメリカの協力なしでは何も外交できないのが欠点だ。

この世界では多くの人が豊かになれる一方で、格差が開き、多くの人々が貧しいまま取り残されている。
お金だけが全てではないと考える人たちの中で共産主義や民族主義が盛り上がるだろう。例えるならこの世界は日本の盆栽のようだと言えるかもしれない。美しいが、小さな鉢の中に入っている。    


③ 進歩なき変化

Market Worldの悪いバージョンのシナリオだ。
どの国も自己中心的で、互いを出し抜くことばかり考えている。
例えば、チベットの人権侵害を理由にインドが中国に宣戦布告し、どさくさ紛れにネパールを併合してしまうといったような事が次々と起こるだろう。
どの国も「敵の敵は味方」といった短絡的で一貫性のない外交を繰り返す。ECは崩壊し、遠い過去の幻想となる。もはや世界が協力し合うなどと想像するものはいない。

イノベーションはギャンブルに等しい。投資家は投資ではなくリスク回避に熱心だし、政府もインフラ整備をする余裕がないため、せっかく可能性がありそうな新技術の芽もついえてしまうだろう。

ゴミの山とスラム街が広がり、 そのすぐ隣には高級住宅街が高い壁とガードマンに守られている。これがこの世界のごく一般的な大都市の姿なのだ。  


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こうして振り返ってみると、二番目の「Market World」はなかなか当たっている。
とはいえ、911からのイラク戦争のような突発的な事件は予想できてないし、インターネットのような発明も予想できていない。

やはり〈発明〉や〈ブラックスワン的な事件〉はシナリオ・プランニングでも絶対に予想できないのだ。

「なぁんだ未来は結局分からないじゃないか。」と思うかもしれない。

しかし、ここでふと考えてみよう。



いったい、自分達は未来を予想してどうしたいのか?



もちろん未来に合わせて行動したいのだ。
金融危機に備えて、リスクを避けるとか。チャンスを逃さず工場を建てるとか。家を買うとかだ。

そう。大切なのは未来をズバズバと当てることではない。実際に良い行動を取るための材料を得ることこそが重要なのだ。



「明日は今日の続きだ。今までどおりの仕事を続けていけばいいのさ」という考えに凝り固まった頭を刺激し、「こんな未来になったら大変だ。備えなければ!」と思わせる。
これこそがシナリオの役目なのだ。


だから「当たりそうだけど頭を刺激ないシナリオ」などいくら作ってもしょうがない。


なので、シナリオは未来を知る方法というよりは決断ツールだと言えるかもしれない。


この例のシナリオで言えば、②のMarket Worldが来る兆候を見て取ったら、「国内向けの製品からグローバル対応した製品作りにシフトする」といった行動が取れるはずだ。 




『The Art of the Long View』 Peter Schwartz 1





『ブラックスワン』を読んで、人間が未来を予想するのは絶望的に難しいのは分かった。

でもじゃあどうすればいいのか?

未来についての計画を立てずに、なすがままに生きていくしかないのだろうか。

それについてタレブの回答は「9割の資産は安定した金融商品を買い、1割をハイリスクハイリターンのブラックスワン級の金融商品に賭ける」というものだった。


これはトレーダーにはいいかもしれないが、一般的にはあんまり役に立たない。

もっとこう、どんな職業や人生でも未来について計画するいい方法はないのだろうか?

と、そういえば昔読んだ未来予測技法「シナリオ・プランニング」を思い出した。

昔ハイデンの本は読んでいたが、なんかいまいちパッとしなかったし、もっとよく分かる本はないかと思って調べてみると、どうもハイデンの本よりピーター・シュワルツの本が良いらしい。

で、さっそく検索したら絶版になってた・・・orz



でもどっかに在庫があるんじゃないか。




Amazonも

楽天も

紀伊国屋オンラインも

ジュンク堂も

あらゆる書店を

調べて、

調べて、

調べて、





それでも売ってないので、

そのうち気付いたら英語版の原書を買っていた…

・・・しまった。手に入れること自体が目的化していた!

英語・・・・




こうして二ヶ月間、通勤中iPhoneの辞書アプリを使って英語のビジネス書を読む日が始まった。

というわけで、せっかく苦労して全部読んだのに忘れるともったいないので、ここにまとめることにした。


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さて。シナリオプランニングの何がすごいか。

思想的にはブラックスワンと同じで、「人間には未来は絶対に分からない。」という認識からスタートする。

そしてどうするか。

「分からないなら、3パターンの未来を考えてどのパターンが来てもいいように備えておけばいいじゃないか」 

という考え方なのだ。
一つの未来を無意識に想定しているから失敗する。
だから、複数の未来に備えようというわけだ。